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雨のまど -5- [Novel]




少し晴れた日の夜は 芯から冷え込んで
早起きスズメの羽さえ 凍らせてしまうほど

氷柱ができるような 寒い朝は
もう少しお布団の中でまどろみながら
夢の続きでも見ていましょうか?



雨のまどは、お話の順に読んでいただけるとうれしいです。
よろしければ、番号をクリックして読んでくださいね^^

雨のまど -1- -2- -3- -4- -5- -6-つぎへ










雨のまど -5-




       でも、何事も起こらず、無常に月日だけが流れていきました。
       おかあさんは、病院に泊り込むことが多く、
       僕のお散歩は、いつもはーちゃんが担当になってしまいました。
       おとうさんのワイシャツは、いつもよれよれで、だあれもアイロンをかけてはくれません。
       あごに生えた無精ひげだけが、元気に伸びているようでした。

       そんな、無気力な日々が延々と続くような気がしました。
       そして、秋も過ぎ、木枯らし踊る冬となる頃、美香ちゃんが帰ってきました。
       僕は、うれしくって、何度もクルクル回っていました。






       美香ちゃんは、かわいい毛糸の帽子をかぶり、
       ふわふわした柔らかなショールにくるまって、笑顔を見せながら帰ってきました。
       真っ白なきれいな手を振りながら微笑む美香ちゃんは、お人形のように見えました。

       僕は、お散歩の時間を除いて、そのすべての時間を美香ちゃんと過ごしました。
       だって、退院したばっかりだから、お散歩はまだ無理だものね。
       へへぇっ。
       それに、なんだか美香ちゃんは、ぼくを離そうとしません。
       抱っこしたり、頭を撫でてくれたり、お話をしたり・・・。
       僕もうれしくって、一日中ひっついて歩いています。
       おかあさんは、2人とも甘えん坊だ ! っていって笑っているんだ。
       もう、前と全然変わらない日を過ごしているような気がするね。


       でもそれは、つかの間の幸せ・・・、と言うものらしかったのです。


       2週間後の、ある小雪ちらつく寒い日の朝のことです。
       美香ちゃんが、小さな声で、僕に言いました。
       「童夢・・・。あなたが大好きよ。」
       「あなたに逢えて、美香は、元気になれたのよ。」
       「もう、お別れになっちゃうかも知んないけど、今日まで生きてこれたのは・・・」
       「童夢・・・。ありがとう。」
       「童夢・・・。大好きよ。だ・い・す・・・・。」
       美香ちゃんの声が、途切れとぎれになってきました。


       大変だ。みんなを呼ばなくっちゃ。

       わう~ぅん。。。

       声を限りに叫びました。
       だって、みんな看病疲れで、深い眠りの中にいるのですから。



          




       おかあさんが、入ってきました。
       『美香、大丈夫 !! 返事をして。』
       『ねぇ、目を開けて。』

       おとうさんも、飛び込んできました。
       【美香 ! 美香 ! 返事をしなさい。】
       【おとうさんは、まだ、おはようを言ってないんだぞ ! 】

       美香ちゃんは、うっすらと目を開いて、そっと微笑みました。
       「おとうさん、おかあさん。」
       「わたしのわがままを聞いてくれて、ありがとう。」
       「おおきくなれなかったけど、とても楽しかった・・・。」
       「最期まで、童夢の傍にいさせてくれて、ありがとう。」
       「なんだか、とても眠くて・・・、眠くて。」

       「ど...う..む…..」



       『あなた、救急車を・・・。』
       【わたしの車で行ったほうが、早くつくぞ !! 】
       『あなた、そんな涙目では、美香を安全に運べないわ。』
       『落ち着いて、あなた。』
       『こんなとき、女のほうが、案外しっかりしているものよ。』
       【ああ・・・。では、救急車を・・・。】
       【何番だったか・・・ ? ああ、そうだ。】


       そんなこんなのドタバタを繰り返し、みんなは、病院へ行きました。

       美香・・・。
       ぼくは、あなたの傍にいたいよぉ・・・。
       出来ることなら、美香を抱きしめてあげたい・・・。



       ずうっと待っていましたが、やがて夜も更け、
       真っ白の朝がやって来ても、誰も帰ってはきませんでした。
       ぼくは、知らぬ間に、眠ってしまったようでした。







雨のまど -6- に続く






     *** おぼえがき ***


   

                祈り


             あなたの胸の 一番奥にある
             深い 深い悲しみが
             声を上げて 涙を流せますように

             流れた涙が 頬を伝って
             ちゃんと こぼれていきますように

             オモイデが ちゃんと想い出として
             心の引き出しに収まりますように


   
                          阪神淡路大震災から15年目の友へ
                                           2010. 1.1 7

   



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コメント 8

未来

美香ちゃんの、やさしさと、いたわりと、感謝の気持ちと、
童夢の切ない叫び声が聞こえてきます。

by 未来 (2010-01-18 09:55) 

tamanossimo

いやだ!
いやだ~~
by tamanossimo (2010-01-18 11:07) 

の

ココまでいっきに読みましたデスよ
可愛そうな話しやし、、、、
ウチの親戚の事とダブりますですゥ☜(・・;)。。。。


by (2010-01-19 00:38) 

ゆめ乃

未来さん、こんばんは。
動物も人も、みんな同じ感情があるのでは・・・なんて、
いつも考えちゃったりします。
ずっと読んでくださって、ありがとうございます。

by ゆめ乃 (2010-01-19 03:55) 

ゆめ乃

tamanossimoさん、こんばんは。
あらあらあらあらあらあらあらあら。。。
ほら、泣かないで。。
空色のハンカチを、貸してあげるからね。

by ゆめ乃 (2010-01-19 03:58) 

ゆめ乃

のさん。。
ほんと、一気に読んでくださったのね。
ありがとうございます。
ご親戚の方のことと少しダブりましたか。
お読みになっていて、お辛いことはありませんでしたか?
お辛くなり過ぎなければ・・・と、思っています。

ちぃさなはなに あのこのなまえ
はるには ぴんくの かわいらし
なつには きいろの かわいらし
あきには にしきの えもようで
ふゆの しろいきゃんばすに
かいて そらにとばしましょ

いついつまでも あのえがお
わすれず おもい えがけるよう


by ゆめ乃 (2010-01-19 04:09) 

ゆめ乃

Qooさん takemoviesさん mituさん
私が三人目さん majoramuさん 阿呆市さん
qoo2qooさん rebeccaさん hidepachiさん
ホタルの館さん

こんばんは。
読んでくださって、ありがとうございます。
今日は少し寒さも緩むようですが、
気温の上下が激しいですので、
体調を崩されないようにしてくださいね。

by ゆめ乃 (2010-01-19 04:14) 

彩美

こんにちは。
悲しい現実となりましたね。
by 彩美 (2010-01-20 15:40) 

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