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雨のまど -6- [Novel]




お陽さまは 西の空を通り過ぎる頃に
ぽっかりと姿を現し
真っ白な田んぼを
薄紅色に染めていきました


明日はたぶん いい天気だから
きっと きっと おしょりになるね

そしたら田んぼを突っ切って
真っ直ぐ きみに逢いに行くよ
一緒に並んで
最後のお話を読もうね




雨のまどは、お話の順に読んでいただけるとうれしいです。
よろしければ、番号をクリックして読んでくださいね^^

雨のまど -1- -2- -3- -4- -5- -6-










雨のまど -6-




       「童夢。。。」

       その声に振り向くと、美香ちゃんが笑って立っていました。
       美香ちゃん・・・。
       うれしくなった僕は、美香ちゃんを追いかけました。
       でも、美香ちゃんは、淋しく笑うだけで、なかなか追いつくことが出来ません。


       美香ちゃ~ん。。
         美香ちゃーん。



       だれかが、突然ぼくを抱きしめました。
       お隣のはーちゃんです。

       どうしたの、はーちゃん。
       泣いているの・・・?


       はーちゃんが、教えてくれました。
       美香ちゃんは、小さく笑って、眠るように息を引き取ったと・・・。
       おとうさん、おかあさんといった後、童夢・・・って。
       そう言って、遠い世界に旅立って行ったんだって。


       あの時、ぼくに会いに来てくれていたのですね。
       大好きな、美香ちゃん。






       この後は、いろんなことがあって、おとうさんも、おかあさんも、
       少し気が紛れているようで、何とか元気に過ごせました。

       すべてのことが終わったとき、
       そこには、おとうさんと、おかあさんの抜け殻だけが残っていました。

       どうしよう・・・。
       ぼくに、何が出来るだろう ?
       ぼくの、してあげられることは、なんだい ? 美香ちゃん、教えて・・・。


       ねぇ、おとうさん。
       ねぇ、おかあさん。
       ぼくが、ずうっと傍にいてあげるから・・・。
       元気を出して。






       それから半年も過ぎ、
       ようやく心の落ち着きを見せ始めた頃、おとうさんが話してくれました。

       【なぁ、童夢。】
       【どうして、美香が途中で家に帰ってきたか、わかるかい ? 】
       【美香なぁ・・・。童夢のことが大好きでなぁ。】
       【おまえと一緒でないと、元気が出なくなっちゃったんだよ。】
       【だから、一度、家に戻してみようか・・・? なんて、お医者さんも言ってな。】
       【あんなに寒い日だったんだけど、戻って来たんだよ。】

         くぅ~ん

       【ふふふ。思い出しているのかい。】
       【戻って来て、おまえと一緒にいるようになってからはね。】
       【見違えるように、元気そうで、病気のことも、忘れてしまいそうだったんだ。】
       【童夢。本当に、ありがとうな。】
       【これからは、私たちを励ましておくれ。】
       【なあに・・・、ただ、傍にいてくれるだけでいいんだよ。】
       【頼んだよ。童夢。。。】

         ワン。


       それから僕たちは、お互いを慈しみ、慰めあいながら過ごしていきました。
       美香ちゃんのことも、時々は話の端にのぼります。
       でもそれは、とても懐かしい日々の1ページとして・・・。

       ぼくは、お二人に囲まれて、幸せな日々を過ごしています。
       本当に、幸せな日々・・・。





       でも、ずうっと
       ぼくは、追いかけていたんだ。
       とおい想い出のあとを・・・。

       君とすごした、あのときが、
       ぼくには、いちばん楽しかったんだと・・・。






     
                    あの日の 雨のまど
                    君を乗せた車が 急ぎ足で遠ざかる
                    ぼくは雨にぬれたガラス窓に
                    小さな鼻を押し付けて
                    ただ 見送るしかなかった

                    雨のまどを 見つめるたびに思い出します
                    あなたが この手を離れていってしまうことを
                    僕はまた 
                    ただ ガラス窓のこちら側からしか
                    見ていることが出来ない悔しさ

                    雨の日のガラス窓は
                    僕の叫び声も
                    君の姿も
                    すべてをかき消してしまう
                    そんな定めを持つのですね

                    あの日の 雨のまどは
                    ちいさな雫を ぽとりと落として・・・








                         ~完~

                                                       H16. 6.15









                    やぁ、みんな♪
                    最後までよんでくれて、ありがとう。
                    うれしくって・・・ うれしくって・・・
                    ほんとうは、ここから飛び出したい気持ちなんだ。

                    大好きな人との、大切な時間・・・。
                    どうかきみも、そんな時間を大事にしてください。


                                               by 童夢





長いお話を、最後まで読んでくださいまして
ほんとうに ありがとうございました。







     *** おぼえがき ***

   おしょりになったら、学校まで田んぼを真っ直ぐ突っ切って走って行けるから、
   ちょっと寝坊してもダイジョウブダヨ おかぁさん。
   なんていって家を出でも、おしょりの上を歩くのが楽しくって、うんと遠回り。
   結局、どんなに早起きをしても遅刻しちゃうってわけさ( 笑 )

   ん ! ?  その「おしょり」ってのがなんだかわかんない ! ! ってぇ~( 汗 )
   そりゃ、大変失礼いたしました ^ ^

   「おしょり」っていうのは、    雪が積もってから少し表面が融け、それが夜から朝にかけての冷え込みで凍って、
   人が乗っても雪にがぶらないようになっている状態のことです。
   だから「おしょり」になると、日頃歩けないような田圃の真ん中なんかも歩けちゃうってわけ♪
   晴れる日に多くできるけれど、しっかりお陽さまが当たっちゃうとすぐ融けちゃうから、
   ホンの短い間の、楽しい遊び ^ ^
   「おしょり」はこちらの言葉だから、他の方のところでは、また違った言い方をされているかもしれませんね。
   「おしょり」に乗ると、ミシミシとかバリバリと音がして、がぶっちゃうか通り抜けれるかドキドキしながら歩き回っていました。 ( 笑 )
   そうそう、霜柱を踏みしめるときのような音に似てるかも ! ?

   がぶる・・・も分からないかな ?
   泥や雪の中に足がずぶずぶと沈んでしまうことです ^ ^




   



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コメント 27

tamanossimo

悲しみのあとにはきっと幸せが来るよね?!

by tamanossimo (2010-01-19 03:47) 

ゆめ乃

tamanossimoさん、おはようございます。
どんなに悲しいことがあっても、
乗り越えられる強さが、誰にでもあるはず。
それは人それぞれの時間の長さは違うこともあるだろうし、
乗り越えるという意味も、いろいろだろうけど、
きっと、そのひと それぞれに
必ず幸せは来ると思います。
だから、童夢も美香ちゃんのご家族にもね^^

最初から最後まで、読んでくださってありがとうございました。

by ゆめ乃 (2010-01-19 04:19) 

ガンバルおやじ

1枚目、いい色ですね~♪
by ガンバルおやじ (2010-01-19 05:49) 

の

家族皆んなの身体の悪いトコ、、、、一つずつ
美香ちゃん持って行ったン、、、きっと~(^^)v

by (2010-01-19 09:23) 

ホタルの館

雪が夕日に照らされている様子、とても綺麗ですねぇ!
なんか、銀世界とは違う世界が広がっているみたいです☆
by ホタルの館 (2010-01-19 23:55) 

未来

とっても素晴らしい作品でした。
感動をありがとう・・・。

「ただ ガラス窓のこちら側からしか見ていることが出来ない悔しさ・・・」
この言葉にも胸を打たれました。
by 未来 (2010-01-20 07:52) 

彩美

大切な人との時間を大事にしないとね。
by 彩美 (2010-01-20 15:43) 

yann

一気に読んじゃった。
うまく感想を言えないよ、
うるっとしちゃって。

大切な時間、でも普段はぜんぜん意識してないんだよね~。

by yann (2010-01-21 22:03) 

ララアント

ごめんなさい!!
感動して 言葉もありませんが・・・ 言い表せないもどかしさを
感じています。
「ありがとう!!」ございました。

「おしょり」前記時で気になり 検索しなくては思っていましたが
きちんと説明されていて 又 そこで「雪をかぶらないように・・」???も
説明がされていて感心しました。
又 読み手の気持ちを推し量れる"ゆめ乃"さん・・・
本当に素敵な方ですね。。。

by ララアント (2010-01-21 22:50) 

emily

お久しぶりです。
全部、拝見しました。

とても感動。ってか、
胸がいっぱいになりました。

最近、辛い事が沢山あって。。。
気持ちがふさぎこみがちですが
大切な時間を素敵に過したいと思います。
by emily (2010-01-23 07:49) 

kelly

真っ白な田んぼを朝日が綺麗に染めてますね~
その先には幸せが!!
by kelly (2010-01-25 15:19) 

ゆめ乃

ガンバルおやじさん、こんばんは。
ありがとうございます。
すごいでしょ!?
田んぼが雪で真っ白だから、お陽さまの色に上手に染まってくれるんですよ^^

by ゆめ乃 (2010-02-03 20:07) 

ゆめ乃

のさん、こんばんは。
ぅんぅん。。
きっとそうだね。
のさんのご親戚の子も、きっとみんなの悪いとこ、
ひとりで全部持ってって、
優しさだけを残してくれたんだと思いますぅ。。

by ゆめ乃 (2010-02-03 21:23) 

ゆめ乃

ホタルの館さん、こんばんは。
ありがとうございます。
ふふふ^^
こんな色の雪の原っぱを見ていると、
もしかして触ってみたら暖かいのでは・・・?
なんて思ってしまいますよ(笑)

by ゆめ乃 (2010-02-03 21:24) 

ゆめ乃

未来さん、こんばんは。
最初から最後まで、とても丁寧に読んでいただき、
たくさんの言葉をくださいまして、ありがとうございました。
その上、こんなお褒めの言葉までいただけて・・・。
うれしさを上手に表現できない自分が、とても歯痒いです。
すごくうれしかったです。
ありがとうございました。

by ゆめ乃 (2010-02-03 21:28) 

ゆめ乃

彩美さん、こんばんは。
そうですよ!
大切な人との時間は、ちゃんと愛しんで大切にしないとね♪
そして、大切な人がたくさん出来るといいですね。

by ゆめ乃 (2010-02-03 21:31) 

ゆめ乃

yannちゃん、こんばんは。
一気に読んでくださって、ありがとうございます。
本当は、一気に書きたかったんだけど、ちょっと長かったから、
つぎはぎアップになってたの。
だから、最初から通して読んでもらえたことが、すごくうれしかったです。
ありがとうございます。

そうなのよねぇ。。。
一番空気みたいな人が、一番大切な人だってこと。。
なかなか気付けないものね。
でも、いつも近くにいてくれる人は、とても大切な人なんだって、
いつでもどこかにインプットしておきましょう^^

by ゆめ乃 (2010-02-03 21:36) 

ゆめ乃

ララアントさん、こんばんは。
あったかい気持ちで読んでくださって、ありがとうございます。
言葉では言い表せないその気持ちが、
コメントの行間を伝って、あたしに届いてきました。
本当にありがとう^^

おしょりって、子供の頃はいつでもワクワクして、
今日はなるかなぁ~、明日はどうかなぁ~って楽しみにしてたんですよ^^
なんたって、学校がすっごく近くなるもんね(笑)

by ゆめ乃 (2010-02-03 21:41) 

ゆめ乃

emilyさん、こんばんは。
お話を読んでくださって、ありがとうございます。
とてもうれしかったです。
最近、調子はどうですか?
気持ちにお陽さまマークは、たくさん現れてくれるようになりましたか?
とっても辛いことが多いときは、なかなか難しいかもしれませんが、
いろんな物事は"かんがえよう"と、
時々は、あなたの大切な時間をイッパイアイシテクダサイネ。

by ゆめ乃 (2010-02-03 21:53) 

ゆめ乃

kellyさん、こんばんは。
実は、これは夕日なのです。
夕焼けの紅色が雪原に映って、周り中がこんな色になりました。
なかなかこんな色の場所に立てないものね。
ふふふ。。
これは雪が積もる地方の特権かしら(笑)

by ゆめ乃 (2010-02-03 22:02) 

ゆめ乃

天野弘樹さん
mituさん
takemoviesさん
阿呆市さん
furukabaさん
majoramuさん
西尾征紀さん
rebeccaさん
kakasisannpoさん
qoo2qooさん
Qooさん
Bon-Papaさん
こうちゃんさん
NsHomeさん
すぅ〜ちん♪さん
ぼんぼちぼちぼちさん
官兵衛さん
sazanさん

こんばんは。
きてくださって、ありがとうございました。
やっと北側の屋根雪が消えたと思ったら、
今日からまた雪の日が続くようです。
能登地方には、大雪警報が発令されたとテロップが流れました。
ああ゛。。。
こちらも明日は積もっているのかなぁ~。
雪掻きしなくっちゃだめかしら?
ち・ちょっとしんどいです(汗)

by ゆめ乃 (2010-02-03 22:16) 

e_chan

昨年の自分と童夢君がダブって。。。
何も出来なかった自分を思い出しました。
何気なく過ごしている日々だけど
とても大切な時間だと思い直しました。
by e_chan (2010-02-04 03:04) 

gehirn

そばにいるだけの存在って大きいですよね。
・・・・・言葉が出てこない・・・
by gehirn (2010-02-05 08:25) 

ちゃーちゃん

こんにちは‼
最後迄、読ませて戴きました・・感激です。・
素敵な物語・・・切なくて悲しかったです。
童夢くんとお父さん、お母さんが何時迄も美香チャンの思い出と共に
元気で過ごされる事を祈っています・・・
童夢くんて素敵なワン子ちゃんですネ。
私も「おしょり」って呼ばないけど、其の感覚は子供の頃に
経験しています。
懐かしく思い出しますよ・・・




by ちゃーちゃん (2010-02-11 11:59) 

ゆめ乃

e_chanさん、こんにちは。
お返事が遅れて、ゴメンなさい。。。
去年のe_chanさんは、ただ見つめるだけしか・・だったんだね。
でもね。。
そのただ見つめている・・ってことが、子供たちにとっては一番うれしいことなのだと思いますよ。
成長していく子供たちのこと。
いろんなことがいっぱい起こっていくと思いますが、
いつでも、ちゃんとしっかりと見つめていてあげてくださいね☆

お話も読んでくださって、サンキュッ♪


by ゆめ乃 (2010-02-14 23:26) 

ゆめ乃

gehirnさん、こんばんは。
お話を読んでくださって、ありがとう。

いつもそばにいてくれる存在って、ほんとうに大きいですね。
日頃はそんなことを思いもしなくても、ふと隣を見たときに感じる安堵感。
喧嘩しながらも、笑いながらも、ずっといつまでも仲良くね^^
あなたの隣で笑っているその人は、ほんとうにステキな人ですから。

by ゆめ乃 (2010-02-14 23:30) 

ゆめ乃

ちゃーちゃんさん、こんばんは。
お話を読んでくださって、ありがとうございます。
いろんな場面で、代わってあげたくても代われないモドカシサみたいなみのを、誰もが一度は経験するのかもしれません。
そんなときの気持ちを、童夢に託してみました^^
そんな気持ちに寄り添ってくださって、本当にありがとう☆

そうそう、オショリ☆
きっとちゃーちゃんさんも経験あるだろうな!!って思っていました(笑)
ちょっと、懐かしくなったでしょ♪

by ゆめ乃 (2010-02-14 23:35) 

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