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待ちわびて・・・ [Novel]

待ちわびて・・・




             家をでる 君の笑顔に魅せられて

             今日まで待ち続けてしまいました



             目を瞑れば あの橋の向こうから

             思いっきりの笑顔を見せて

             駆け寄ってくる君の姿が・・・



             あの夏の日から 61年



             私の頬を伝うのは

             涙ではなく 抜け落ちそうな記憶の束



             忘れたくない 忘れられない

             あの日の悲しみ

             この日の苦しみ



             せめてこれ以上の怒りを繋がないよう

             平和を祈り続けます

             核兵器のない世になるよう

             ただ 祈り続けます







                         あの日から61年目の
                         穏やかな 同じ色をした空が
                         今日も横たわっています


                             8月6日 広島
                             8月9日 長崎






 2006. 8. 6






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 今日の空には、夕陽を浴びた飛行機雲が
 紅く染まって風になびいていました。


 あの日も、朝から照りつける太陽がとてもまぶしく、
 せみ時雨が街を覆っている・・・そんな日でした。

 美智子は足の悪い僕の薬を買うために、
 いつも仕事場へ出かけるよりも、
 ほんの少し、早めに家を出て行きました。

 玄関先まで足を引きずって見送る僕に、
 「無理しないて・・・」と声をかけ、
 向日葵のよう笑顔で大きく手を振って、
 街へと向かうバス停へと走っていく・・・。
 そんな美智子が、とても愛しかった。。

 国中で戦争が叫ばれていても、
 人々の日々の暮らしは、それほど変わるものではなく、
 朝は仕事や学校に出かけ、夜にはささやかに夕膳を囲む。
 そして、朝が来ればまた仕事に・・・と。
 何にも無い時代だったけど、
 「おはよう」「行ってきます」「ただいま」「お帰りなさい」「おやすみなさい」は、少しも変わらなかった。
 あんな時代だからこそ、こんな普通のことがうれしかったりしたんだ。

 そして、8月・・・。
 あの暑い日。
 いつものように いつものままで送り出した人。

 いつもより静がだった空に、異変が起こったのは
 もうすぐお昼の用意をしようと腰を上げた頃だった。

 遠くの空を覆う雲 逃げ惑う人
 何が起こったのかわからずに、ただ呆然とする人・・・。

 この日から、僕の時間は止まってしまった。


 明るく手を振った美智子が、今帰ってくるのでは・・・。
 そればかり願って、僕は玄関を見つめている。

 そう・・・。
 あれから61年たった今でさえ。。。
 僕の記憶は、あの日あの朝で止まってしまっていた。

 しかし、最近は美智子の顔さえ思い出せない。
 ただ悔しさ。
 ただ憎らしさ。
 ただ怒りだけが自分を支配する。
 なんと悲しいことだろう。


 昨日、美智子の夢を見た。
 いつものあの、向日葵のような笑顔で、美智子は玄関に立っていた。
 僕の手をとり、「泣かないで・・」って言った。

 悲しみは、時とともに成長して、あたしを思い出してくれるけれど、
 憎しみは、顔も見えない何かに向かい続けます。
 顔が見えないから、憎しみは倍増してゆきます。
 悲しみは、憎しみでは埋められないものなのですよ。。あなた

 そんな風に、美智子が言ったような気がした。

 憎むことに苦しみぬいた心が、ほんの少し軽くなったようだった。

 僕らには、何も出来ないものだとしたら、
 そして、何か出来ることがあるとしたら・・・。
 それは、願い続けることだけなのかもしれない。

 争いごとの起こらない世界を・・・。
 核兵器の使用されない世界を。
 人々が、普通に幸せを感じられる世界が続くよう。。
 ずぅっとずっと 願い続けようと誓った 8月の暑い日

 僕と美智子が生きた、確かな証の一日。




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 あたしは戦争を知りません。
 でも、いろんな紛争地のお話を聞いていると、
 どんなに争いごとが起こっている地域でも、
 そこに住み人々は、普通に市場に出かけ、普通に仕事に出かけ、
 何もかわらぬ生活を送っているようでした。
 ただ、その生活が時として、突然終止符を打つことになる・・・。
 そんな感じでした。

 そんな時、家族はどう思うでしょう。。
 朝、家を出るところしか見かけなければ、
 やはり待ち続けるのでしょうね。。

 きっとこんなことが、
 原爆の落とされたところでも起こっていたのだと思います。

 こんな悲しみは、誰も望まない。
 決して望まないのです。

 遠い時代に起こった戦争を、私たちは忘れ始めています。
 でも、二度々こんな戦争を繰り返さないためにも、
 何もしなくていいから、
 原爆の日だけでも、毎年思い出して居続けたいと思いました。



 この物語は、すべでゆめ乃(tozyeekiki)の空想の物語です。
 最後までお読みくださいまして、ありがとうございました。





 これは、8月6日の長崎原爆記念日に書き置いた物語です。




 2006-08-10 12:42:56up
 2007-09-16 再up






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