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ゆめくい - part 2 - [Novel]





お前が眠れなくなるほどに
怖い夢を見たならば
ちょっこし わしが
食ってやるから

心配すんな







お話の順に読んでいただけるとうれしいです。

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  それからどれくらいの時が流れたでしょうか。
  不覚にもしばらく寝入ってしまったおさきばあさんは、
  急に冷え込んできた風に気がついて起き上がると、
  「流石にこれ以上は無理じゃし、そろそろ帰らにゃいかんのぉ~」と言いながら
  転がったキノコを篭に積みなおし、よっこらしょと背に担ぎ、
  もと来た道を、ふらふらしながら戻っていきました






  この秋最後のキノコ狩りを終えてから二日ほど過ぎると、
  強い北風と共にこの冬最初の雪が舞い降りました。
  陽が翳ってくる頃になると、寒さはさらに増し、
  じっとしているだけでは、芯から凍っていきそうなほどでした。

  寒さに耐えかねたおさきばあさんは、
  昨日から囲炉裏にいつもより多くの薪をくべ
  自在吊りには大鍋に湯を沸かして、寒さを凌いでおりました。
  外がうそうそと暗くなってく頃、
  重い腰を上げ夕餉の仕度を始めました。
  この日の献立もいつものあまり変わらぬもののようです。
  いつものように、おさきばあさんは塩漬けにしたきのこを取り出し、
  掘り出しておいた大根と一緒に大鍋で煮はじめました。
  しばらくすると、わらぶき屋根の煙通しの隙間を抜けて、
  美味しそうな匂いが風に乗って飛んで行きました。

  そんな匂いがどこかに届いたのでしょうか、
  突然戸を叩く音が聞こえました。

  おさきばあさんは訝(いぶか)しげに眉を寄せながら、
  戸口を押さえた、掛け金代わりのつっかえ棒は外さず、
  「どなたさんかいのぉ~」と、声をかけました。


  すると、外の風の音に混じりながら、
  「旅の者じゃが、少し先のきのこ山の辺りで道に迷ってのぉ・・・」
  「軒先でよいから、一晩休ませてくれぬかの?」と、
  おさきばあさんは、
  (ありゃま。。女ひとりの家に男衆さんを泊めるだなんて・・・)
  と、ためらいはしたものの、なぜだか妙に気持ちが華やいできた。
  ましてや今夜の外はめっぽう寒いときてる。
  ここで追い返してしまって、
  旅人さんが途中で行き倒れでもしては目覚めも悪い。
  だから、まあ、人助けのようなものだ、仕方が無いのぉ~。
  遠い所から、古い友達が来たと思えばよいじゃろうて。
  おまけにあたしゃ、ずいぶんと歳をとっておるからのぉ。
  だしゃない・・・ だじゃない・・・などと自分に言い聞かせ、
  「ほれ旅のお人よ、おひとりかのぉ~。
  おひとりじゃったらよかですよぉ。今日は風が強いし雪も降る。
   囲炉裏端でよけりゃ、休んで行きなされ。」
  と、つっかえ棒を外して、外の客人を中へと招き入れました。

  戸口から狭いたたきを跨いですぐの小さな囲炉裏には、
  自在鉤に吊るされた大きな鍋がかかっていて、
  囲炉裏端には、なんとも旨そうな匂いが湯気と共に漂っていました。







  「こんな日に道に迷うだなんて、
   さぞかし寒くて心細かったやろうにぃのぉ~。」
  「何にも無いけれど、
   汁でも食べて温まっておいきなさいよ。」
  と、おさきばあさんは久しぶりに会話のある夜を過ごせて、
  いつもになく笑顔になっていました。

  なんせここは村はずれ。
  誰かと話しをするには、隣の家まで少し歩くか、
  橋の近くまで出て行かないことには、人と逢うこともままならぬ。
  ましてやもう、雪の降る季節になってもうたもんね。
  人も田畑にゃ出てこんわぁ。
  
  だけどこの日は特別じゃ。
  ほんとにほんとに 久しぶり。
  まるで爺さんが生きていたときのように楽しく、面白く時が過ぎてゆき、
  今が何時(なんどき)じゃろうかなどとは、
  これっぽっちも頭に浮かんではきませんでした。
  けれど、流石にとっぷりと夜も更けたとみえて、
  少し頭がぼうっとなってきたおさきばあさんは、

  「こりゃまた、ずいぶんと話し込んでしまって・・・。
   お前さんも疲れているじゃろうに、すまんかったの。
   あたしゃ、そろそろ奥へ行くから、
   おまえさんはは、その火のそばでおやすみなさいな・・」
  と言って、奥へ行こうとくるりと背を向けて、一歩足を踏み出したときでした。
  突然、旅人が変なことを言い出しました。

  「おさきばあさん。今夜はぐっすり眠れるはずですよ。」と。

  驚いたおさきばあさんは、首だけをぐりっと振り向かせ、
  マジマジと、すまして茶などを飲んでいる旅人をにらみつけました。
  そして慌てて首を元に戻すと、
  頭を振りながら奥の寝床へと歩いて行きました。

  ( まさか、このあたしが怖い夢を見るから、
   なかなか眠れないってことを、
   着たばかりの旅人さんが知るはずも無いよねぇ・・・ )と、

  おさきばあさんは不意に不安が募ってきましたが、
  なぜだかまぶたが重くなるばかりで、
  いまここで、何かを言い合っていることなんぞ、
  とても出来そうになくなっていました。

  おさきばあさんは不安な気持ちを抱きながら、
  奥の寝床へとたどり着くと、薄っぺらい布団にもぐりこみ、
  ( ああ。。。たまの親切心なんぞ出すもんじゃなかった・・・ )と呟きました。
  だがもういろいろと考える気力も無くなってしまっていて、
  目を瞑った途端、あっという間に眠りについてしまったのでした。
 

  程なくすると、おさきばあさんの寝床のふすまが
  するりと音も無く開き、またすぐに閉まりました。
  目を凝らしてよく見ると、
  眠っているおさきばあさんの頭の辺りでは、
  黒くてもやもやとするものが、グルグルと渦巻いていました。



  つづく

2013.7.5 改


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     気ままな拙いブログを見に来てくださいました、たくさんのみなさま。。
     ほんとうに、ありがとうございました。

     また今回は、いただいたnice! が、5000個目となりましたので、
     ご迷惑とは思いますが、たまたま踏んじゃったaidesuさんに、
     押し付けの記念カードをお贈りしたいと思います。

               


     この写真は、春の七草でおなじみのコハコベの写真です。
     朝日があたると開くこのお花を、aidesuさんが朝、目覚めるときはいつでも、とびっきりの一日になるようにと、
     そんな願いを込めてお贈りしたいと思います。
     ご迷惑でしょうが、押し付けカードでございます(笑)
     よろしければ、ご笑納くださいませ☆

     みなさま、ありがとうございました。








   

       ひとりぽっちじゃないからね☆





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コメント 18

aZU

niceが5000とは思わず自分はって・・・・
オメデトウございます。
by aZU (2011-03-23 20:48) 

旅爺さん

5000nice!は一区切りですね、おめでとう。
そしてこの話の先はどうなったの? 聞かないと眠れない、笑
先ほど震度4ですが震度4位では驚かなくなりました、そんな自分が怖いです。
by 旅爺さん (2011-03-24 06:25) 

多夢

私はH/Nのように夢が多いので、全部食べきれるかな?^^;☆
今度、ブログで「夢売り」て言うストーリー、書いてみようっと。

夢、いりませんか・・・。なんてね。
by 多夢 (2011-03-24 13:44) 

侘び助

5000nice!おめでとうございます。 
お話思わぬ展開になってきました。
by 侘び助 (2011-03-24 16:53) 

多夢

私の記事に、ご来訪&nice!とコメントをくださいまして、ありがとうございました。
多重露光、私はフォトシヨップで微調整していますが、「picasa 3」というフリーソフトの「コラージュ」でお手軽簡単に出来ますよ。♡
グーグルが出しているソフトですので、安心して使えます。
一度ググってみてはいかがですか?。
by 多夢 (2011-03-24 22:00) 

未来

話も佳境に入って来ましたし、
5000niceとは凄いですね。
おめでとうございます。
by 未来 (2011-03-25 09:47) 

ゆめ乃

aZUさん、こんにちは。
お祝いしてくださって、ありがとうございます。
aZUさんは、地震大丈夫ですか?
新潟の方は、大丈夫でしたか?
お身体の方も心配ですので、どうぞお大事にお過ごしくださいね。

by ゆめ乃 (2011-03-26 18:08) 

ゆめ乃

旅爺さん、こんにちは。
あらあら、うれしいお言葉♪
それとお祝いをくださいまして、ありがとうございます^^
この日は、ずいぶんと揺れていましたね。
今日はその頃よりはすこし少ないようですが、大きな地震の後ですから、
本当に十分注意をなさって、くれぐれもご無理をなさらないようにしてくださいね。。

by ゆめ乃 (2011-03-26 18:13) 

ゆめ乃

多夢さん、こんにちは。
な・なんと!!
多夢の夢は、すごそうですね^^
食べ切れそうも無いので、ぜひ、「夢売り」のお話をかいてください!!
あたしもひとつ・ふたつと、もらいに行きたいと思います。
ぅん? か・買うのかぁ~(笑)

by ゆめ乃 (2011-03-26 18:16) 

ゆめ乃

侘び助さん、こんにちは。
お祝いをありがとうございます。
思わぬ展開・・・(ニヒ)
うまくいった。。。うまくいった。。。
次もうまくいきますように(笑)

by ゆめ乃 (2011-03-26 18:18) 

ゆめ乃

多夢さん。。
教えてくださって、ありがとうございます。
お花をたくさん撮るようになったら、是非試してみたいです。
ググってみますですぅ~^^

by ゆめ乃 (2011-03-26 18:21) 

ゆめ乃

未来さん、こんにちは。
お祝いをありがとうございます。
みなさんのお蔭様で、何とかここまでやってこれました。
本当に、うれしいです^^
お話も読んで下さって、ありがとうございます。
なんだかどんどん、ダラダラになって行きそうで・・・(汗)

by ゆめ乃 (2011-03-26 18:26) 

ゆめ乃

とみっちさん
すぅ〜ちん♪さん
qoo2qooさん
rebeccaさん
flutistさん
kiyoさん
ホタルの館さん
majoramuさん
thisisajinさん
でいぶさんさま
西尾征紀さん
ちー坊さん
Pin-BOKEさん

こんにちは。
見てくださって、ありがとうございます。
相変わらずダラダラとした何も無いブログですが、
たまに渇を入れにきてくださいね^^
ほんとうに、ありがとうございました☆

by ゆめ乃 (2011-03-26 18:31) 

ちゃーちゃん

こんばんは‼
数日訪問出来なくてちょっと寂しく思っています・・・今日は遅いので明日ゆっくり遡って訪問させて下さいね。
それからゆめ乃さんには無断でしたが、読んでいるblogに登録させて頂きましたので宜しくお願い致しますm(_ _)m
by ちゃーちゃん (2011-03-27 00:16) 

ゆめ乃

ちゃーちゃんさん、こんばんは。
さみしく思ってくださるなんて。。。
そんなふうにこの場所を愛していただけてるなんて、何よりもうれしいことです。
ありがとうございます^^
いつでも、ゆっくりといらしてくださいませ☆
ブログのリンクにも加えてくださって、とてもうれしいです。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。


by ゆめ乃 (2011-03-27 04:28) 

ちゃーちゃん

今日はしっかり読ませて戴きました・・・お話に引き込まれましたね。
逆に読む事になってしまったのですが面白かったです。
昨日読んだお話をもう一度読みたくなりました(^-^)
by ちゃーちゃん (2011-03-29 00:17) 

ゆめ乃

ちゃーちゃんさん、ありがとうございます。
今度はいつ来てもちゃんと読みたい場所から読めるように、
お話の順番を最初に書いておきました。
クリックすると、どの場所からでも読めますからね☆
楽しんでいただけたようで、またお話の続きを書くのが楽しみになりました。
まだまだ眠れるようになるお話ではないけれど、
最後には、ちゃーちゃんさんがぐっすりと眠れるようになるといいな^^
でも、続きが気になって眠れないよ!!って言われたほうがうれしいかも(笑)

by ゆめ乃 (2011-03-31 00:52) 

ゆめ乃

yannちゃん、こちらも見てくださって、ありがとう^^
まだ余震も大きいのがあるから、上下左右、十分気をつけてくださいな!

by ゆめ乃 (2011-03-31 00:55) 

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